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Japan Street Lens 新宿の細道 別世界へ瞬間移動
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新宿には無数の細いストリートがある。数十メートル隔てただけ風景は一変し、別次元の世界に瞬間移動したような錯覚を覚える=2012年11月3日、東京都新宿区(ニコラ・ダティシュウさん撮影) 東京にはいろいろな街がある。なかでも、新宿は被写体として飽きることがない。無尽蔵の魅力がある。
この街の玄関口である新宿駅の1日当たり乗降客数は世界最大の約350万人を誇る。歌舞伎町には、昼夜を問わず多数の人が行き交い活気に満ちあふれている。超近代高層ビル、都庁、風俗街、ゴールデン街、幼稚園、小学校、神社仏閣、サラリーマン、OL、学生、家族連れ…。ありとあらゆる建物、文化、人を抱きかかえている。その多様性に圧倒されるばかりだ。24時間365日、この街では何かが起き、変化している。新しい発見そして変化を捉えたくて、週に1度はカメラを片手にふらっと新宿の“ストリート”を歩く。
わずか数十メートルを隔てただけで突然、風景や道を歩く人の様相、時間の流れがガラリと変わったりする。予測もしていない突然の変化に驚く。新宿には人目に付かないような細いストリートが無数にある。なかには歴史の匂いがぷーんと漂うような道も。パリなどでは一つ一つの道に「ストリートネーム」が付けられているが、新宿では隠れた細いストリートが多すぎて、すべてに名前を付けることなどできないと理解できる。
先日、高島屋の東側裏にある小さな路地を発見。どんどんと引き込まれるように中に入っていくと、木造の古い民宿、オシャレなアンティーク風のホテル、江戸時代からの墓地が現れ、それまでの喧噪(けんそう)が消え、静寂が広がっていた。別次元の世界に瞬間移動したような錯覚を覚えた。過去と未来が交差している-。そんな瞬間に出合える。
ある日は、東新宿と新大久保の間にある細い道を歩いていると、カフェやブティックなどの小さな店舗が並ぶ場所があった。皆が肩を寄せ合い、助け合いながら、競争相手ではなく共同体のように商売をしていた。まるで“ビレッジ”のように。新宿の真ん中で村を見つけた。
≪薄れゆく歌舞伎町の「色」≫
新宿は色彩豊かな街だが、今回はあえて、「モノクロ」で撮った。カラーだと景色に目がいってしまうが、モノクロだと、人物に焦点が絞られる。
写真に写っているのは、日常の一部から切り取った普通の人たちだ。写真を見ていると、どんな人たちなのだろう、どんな感情やストーリーがあるのだろうと、想像が広がっていく。
モノクロにこだわったのは、私が尊敬する、50年間、街に立ち、路上のあらゆるものを撮り続けた写真家、森山大道氏に影響を受けたからだ。
写真家にとって、いつも新鮮な驚きであふれている新宿だが、なかでも、歌舞伎町は最も気に入っている場所だ。
歌舞伎町はここ数年で、ものすごく変化した。大手資本のチェーン店などが次々に流入し、最近はどんどん増える外国人観光客向けの店舗が目立つようになり、治安もびっくりするほどよくなった。一方で、地価や物価は上昇し、歌舞伎町ならではの昔ながらの特異性や地域性が薄れつつある印象を受ける。
欧州の都市で頻繁に起きている「ジェントリフィケーション」(低所得者層が住むエリアに富裕層が流入し家賃などが上昇し低所得者層が住めなくなり、地域特性などが失われる)現象が新宿でも起きているようだ。
新宿の街を今日もカメラを片手に歩く。新宿は、“インソムニア”(不眠症)の街だ。細いストリートが無数にあり、ビレッジ(村)が存在する。
5年後の2020年東京五輪・パラリンピックに向けて、さらに変化していく新宿の街をカメラに収めたい。(写真・文:フランス人フォトジャーナリスト ニコラ・ダティシュウ/SANKEI EXPRESS)