【番頭の時代】第2部「飛躍」を生み出す(1)ユーグレナ
□鈴木健吾取締役・福本拓元取締役
■白衣の異才 ミドリムシ提案
沖縄県・石垣島。南国とはいえ、冬の肌寒さを感じる日だったが、ベンチャー企業「ユーグレナ」の研究開発担当取締役、鈴木健吾は上気した顔で、東京・六本木の本社に電話をかけた。
「やりました。プールがミドリムシでいっぱいになりました」
培養に使う直径30メートルのプール。これまでは何回実験を重ねても、雑菌で培養液が白や赤に染まっていた。だが、この日見たプールの培養液は、まるで濃茶のように深い緑一色に染まっていた。
「本当か。うまくいったのか」
知らせを受けた社長の出雲充の表情も、驚きから喜びに変わった。2005年12月16日。この日は、ミドリムシの学名(ユーグレナ)を社名に冠した同社が、世界で初めて屋外の培養プールでの大量培養に成功した記念すべき日となった。
出雲の掲げた「ミドリムシで地球を救う」という壮大なビジョン。鈴木は研究者として、そのビジョンを現実のものにした“研究者番頭”だ。
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藻の一種のミドリムシは、動物性・植物性の栄養素を豊富に含み、栄養補助食品の原料となるほか、ジェット燃料の原料となる油脂を光合成で作り出す。だが、バクテリアなどの外敵に弱く、それまでは無菌室で育てるしかなかった。量産化に不可欠な、屋外での大量培養という課題は大きなハードルだった。
この難題を克服したのは逆転の発想だ。出雲は「それまでの培養は、蚊に刺されないよう蚊帳を何重にも張るようなもの。鈴木は『ならば蚊取り線香を置いたらいい』と考えた」と説明する。