しかし、事故をゼロにするのは困難だ。岩渕会長は「鉄道事故が起きれば鉄道会社も経済的な負担を負う。それを会社が負うのもおかしい。認知症の人が交通事故に遭い、ひいた人が罪を問われるのも困る。新たなシステムづくりが必要だと思う」。
別のある自治体では実際に見守りをしていた認知症の女性を事故で亡くした。女性は日に複数回の神社の掃除が日課。家族や自治体は女性が盛夏に脱水で倒れることを心配してチラシを作成。家から神社への道沿いの公的機関や地域の人に働き掛けて女性を見守り、行方不明になったら連絡網で捜す仕組みをつくった。しかし、うまくいっているかに見えた2年後、女性は事故で死亡した。
職員の中からは「在宅にこだわり過ぎた結果ではないのか」との声も出た。しかし、取り組みをするまでには、本人の意思をおもんぱかり、家族にどう暮らしたいかを確かめ、自治体の地域包括支援センターや福祉職が連携し、周囲でできることを検討し、地域で共通認識をつくって取り組んだ経緯がある。
事故後も家族の気持ちを聞き、地域の人の意見を聞き、関係者間で話し合った。「本人の意思には添えた。それをもって良しとするしかない」(同自治体職員)と結論付けた。