世界遺産マチュピチュ観光の朝は早い。起点にした街、クスコの出発は午前2時。マチュピチュ行き列車が発車するオリャンタイタンボ駅に向かうバス乗り場までタクシーを拾うため、小雨が降りしきる中、宿を出発した。時折強盗被害もあるという、薄暗い石造りの小道を早足で進む。タクシーが停車する広場に着くと、まだバーやクラブはにぎわい、酔った千鳥足の若い観光客がたむろしていた。
その中に、雨にぬれないよう透明のビニールをかぶせた籠を抱え、ショールをかぶった先住民の老女が軒下に座っていた。たばこやチョコレート、ガムなどを観光客相手に販売していたのだ。
「バス乗り場」とは名ばかりの広い駐車場に到着すると、深夜にもかかわらず、10代に見える少年も含め運転手や車掌など、オレンジ色の電球に照らされて働く男たちの熱気が漂っていた。
インカ帝国の首都だったクスコは、リマの現代的な様子とは違い、今でも街、人、共に“先住民色”が濃い。
そしていつでも、どこかで誰かが働いている。それはもちろん、貧困ゆえ生活するためでもあるが、彼らは総じて働き者に見えた。そしてその印象は、とてつもない労力が必要だったであろう、急峻(きゅうしゅん)な尾根の上に空中都市と称されるマチュピチュを建設した、人々の勤勉さにつながった。