「無事に産めるまで、毎日が不安です」。インタビューでうつむきながらこう語っていたあの女性は、今頃どうしているだろうか。
2010年10月、事業の事前調査のためにベトナムの北西部に位置するディエンビエン省のある村で当時23歳の女性に聞き取り調査を行った。この山岳地域は人口の大多数をモン族やターイ族などの少数民族が占め、ベトナム58省の中でも最も貧困率の高い地域の一つである。彼女は妊娠5カ月だった。
この地域に住む多くの少数民族の女性と同じく、彼女も小学校を中退しているためベトナム語を話すことができない。モン族のスタッフがモン族の言葉からベトナム語へ、キン族(越人)のスタッフがベトナム語から英語に訳したインタビューで、女性には4歳の長女がおり、今回が4回目の妊娠で、2回目と3回目の妊娠では自宅で死産となったことを知った。
1986年のドイモイ(刷新)政策の導入以降、高い経済成長を経たベトナムは、2008年に低位中所得国になった。しかし都市部と農村部の格差は広がっており、「2015年までに妊産婦の死亡率を1990年の水準の4分の1に引き下げる」という国際社会の目標達成も危ぶまれている。こうした状況を受けて、ワールド・ビジョン・ジャパン(WVJ)は2012年12月から外務省の日本NGO連携無償資金協力と一般の方々からの募金により、この地域で妊産婦・新生児の健康改善事業を行っている。