世界銀行は90年代以降、途上国の水道インフラ事業に融資する際、水道民営化を推し進めた。しかし、ボリビア、フィリピン、南アフリカなどでは水道事業を民営化した結果、サービス低下や水道料金の高騰が起き、死者が出たり訴訟に発展したりした。日本も同じ轍(てつ)を踏むのではと危惧されているのである。
海外では2000~15年の間に、37カ国で民営化された水道235事業が再公営化されている。
有名なところでは、仏パリ市も再公営化している。水メジャーと呼ばれる国際的水道会社、スエズとヴェオリアが1985年から2009年までの間、パリ市の水道を経営したが、その間、水道料金は265%上昇し、市民サービスは低下した。
パリ市は10年、再公営化を決断するとともに、市民や水道関係者が意見交換するための組織「Observatoire」をつくり、事業の透明性、責任の所在、利用者の関与を徹底した。その結果、45億円のコスト削減や水道料金の8%低減に成功した。水道利用者は約300万人である。
来日したパリ市のベンジャミン・ガスティン業務部長は、再公営化について「事業の透明性と持続性を優先した資産管理が大切である」ことを強調した。
民営化の前にやること
水道民営化については国民の反感があるため、まずは市町村などが手掛ける水道事業の広域化・統合化が一つの選択肢となる。最終形は「1県1水道の集約化」で、既に香川県、宮城県、奈良県などで検討が進められている。
広域化・統合化は「規模の経済(スケールメリット)」が発揮されると強調されるが、そう単純でもない。人件費に焦点を当てると、給水人口が100万人近くになるとやっとスケールメリットが出てくる。つまり、中途半端な広域化・統合化ではメリットは生じないということだ。