「平均年収は韓国以下」日本人の給料がちっとも上がらない決定的な理由

    ■イギリスの「金融」は平均年収で2500万円超も

    イギリス人の平均年収も年々上昇し、2000年の284万6000円から2020年の475万1000円まで、20年間で約67%上がった。しかし同時に、多少の上下はあるが毎年1~3%のインフレ(物価上昇)が続いている。

    イギリス在住21年のジャーナリスト、冨久岡ナヲ氏はこう話す。

    「雇用の多くが『インフレ分の昇給を保証』という契約になり、年収はインフレ率に応じて上がっていますが、モノの値段や光熱費などの上昇ぶりはそれ以上なので、生活が楽になったという実感はありません。この20年で電車賃は2倍に、平均的な住宅価格は3倍に上がりました。消費税は20%です。若い世代にとって持ち家は夢となり、豊かさを感じているのは高額所得者だけだと思います。イギリスは2008年のリーマンショックでそれまでの好景気が冷え込み、いまだに回復したとはいえません。物価を考慮した給料水準では、30代はリーマンショック前に比べて現在は7.2%低いという調査もあります」

    2020年の職業別の平均年収を低い順に並べると、航空会社のCA245万円、IT技術者378万円、ソフトウエア開発468万円、土木建築471万~672万円、警察官476万円、車の修理工489万円、公立小学校の教師521万円(休みの間は出勤なし!)、電車の運転手732万円等々……。GAFAは年収が高く、諸手当込みの基本給でグーグルは1178万円、フェイスブックは1344万円にのぼる。

    ■GAFAをも圧倒的に上回る“金融”

    それ以上に高いのが「金融」だ。イギリスは19世紀中頃に国際金融の中心となるが、1980年代の金融ビッグバン以降、ロンドンのシティー(金融街)はさらに成長してニューヨーク、シンガポールと並ぶ国際金融都市となった。投資銀行、ヘッジファンド、保険など金融系の平均年収は1661万~2688万円と他を圧倒している。

    「これにボーナスが242万~1億7365万円加わります。基本年俸が日本円で1億円を超える社員がかなりいて、ほかの職業との収入格差が激しくなっています」(冨久岡氏)

    公務員は地位や専門によって5段階に分かれて272万~997万円だが、上級公務員になると966万~3142万円と高給取りになり、イギリスの首相(2437万円)より多くもらっている役人は相当数いるという。ちなみに日本の首相は年収約4000万円。日本人の平均年収はイギリス人より100万円近く低いのに、日本の首相はイギリスの首相より1500万円以上高いのである。

    ■非正規雇用者はゼロアワー雇用に

    マクドナルドのアルバイトは23歳以上が時給1359円、夜間勤務になると2419円まで上がり、スーパーのレジ係は18歳以上で1500円から。

    近年の日本では非正規雇用者の増加が問題となっているが、イギリスでは「ゼロアワー雇用(ゼロ時間雇用)」の増加が懸念されている。会社と雇用契約を結んでいるものの、雇用主が要求した分しか働けず、定収入は見込めない契約だ。ロックダウンで失業した人たちがゼロアワー雇用へ流れたため、労働者全体に占める割合は2019年の2.7%から2020年の3.3%まで上昇した。

    ■コロナ禍でイギリスの平均年収が上がった裏事情

    一方、コロナ禍で全体の平均年収は逆に上がったという。

    「失業者は増えましたが、ロックダウンにより、生活必需品を売るお店や医療関係者などを除いて全員が通勤を禁じられ、自宅をオフィスとして使用する手当てが1~10%給料に上乗せされた影響があるようです。また、イギリスでは通勤交通費は個人負担で、各人が確定申告により必要経費として計上します。郊外に住んでいると通勤費が収入の3割を占める場合まであり、自宅勤務になって懐に入る額が増えました」(冨久岡氏)

    今後、とりわけ平均年収以下の職業のイギリス人に影響するのが、2020年1月末をもってEUから正式に離脱したことだ。

    「以前は東欧などから労働者が押し寄せていたため、イギリス経済は低賃金労働者の上にあぐらをかいていました。離脱によりEUから働き手が入れなくなり、人手不足が深刻な農業や運輸の分野では、EU国籍所有者に対して短期労働ビザを与えるなどの対策を採っています。しかし政府としては暫定措置であり、今後は給料の底上げ、職業訓練を含めた教育の充実を目指し、コロナ対策に投じた国費の充填が終われば税率を引き下げ、収入格差を縮めて骨太な国をつくる、という方針を打ち出しています」(冨久岡氏)

    ボリス・ジョンソン首相は10月の演説で、コロナ後のイギリスを「high-wagehigh-skill,high-productivityeconomy(高賃金・高スキル・高生産力経済)」にするという抱負を語った。

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     坂田 拓也(さかた・たくや)

     フリーライター

     大分市出身。明治大学法学部卒業。1992年にサンパウロ新聞(サンパウロ)記者、97年~2004年『財界展望』編集記者。フリーを経て08年~18年まで『週刊文春』記者。現在、フリー。

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     (フリーライター 坂田 拓也)


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