景気減速に歯止めがかからない…習近平氏が“予想外の利下げ”に踏み切った本当の意味

■五輪最優先で各業種が急速に悪化している

その一因として、共産党政権が北京冬季五輪の開催を目指して、“ウィズコロナ“ではなく“ゼロコロナ”を徹底していることは大きい。その結果、飲食や宿泊、交通、物流など人の移動が欠かせない業種を中心に事業環境が急速に悪化している。今後、中小企業を中心に雇用を維持することが難しくなる事業者が増え、雇用環境には追加的な下押し圧力がかかるだろう。雇用環境の悪化は、共産党指導部の求心力を低下させる大きな要因だ。

それを避けるために習政権は、公共事業を積み増して一時的に雇用を生み出し、景気の下支えを目指そうとするだろう。それに加えて追加的利下げなど金融緩和もこれまで以上に強化される可能性が高い。中国人民銀行が5年物の最優遇貸出金利を引き下げる展開も十分に考えられる。人民元高圧力を緩和し輸出セクターへの負の影響を緩和するためにも利下げの重要性は高まっている。

■不良債権処理と公的資金を投じるべきだが…

ただし、追加の景気支援策の発動によって共産党政権が景気減速を食い止めることは容易ではないだろう。最も重大なリスクは、不動産市況の悪化だ。今後、中国の不動産業界ではデフォルトや経営破綻に陥る企業が増える可能性が高い。その結果、銀行およびシャドーバンキングなど中国の金融システム全体で不良債権は増加し、金融の目詰まりが発生するリスクが高まる。

資産バブル崩壊後のわが国の教訓を基に考えると、中国は不良債権処理を進めつつ過大な債務を抱える不動産業者や経営体力が低下した金融機関に公的資金を注入すべきだ。しかし、現時点で習政権はその方策をとることが難しいようだ。共産党政権にとって、不良債権処理を進めることによって一時的であるとしても失業者が増える展開は容認できないのだろう。不良債権処理が進まない状況下で景気支援策を強化したとしても、新しい需要を生み出し、自律的な景気回復を目指すことは難しい。

それに加えて、コロナショックの発生を境に、中国では経済の先行きを懸念し支出抑制をより重視する消費者が増えている。そのため、新車販売台数は減少し、国内旅行市場はコロナ禍発生前の水準を下回っている。感染再拡大によって個人消費は減少基調で推移するだろう。

■習氏の野望で中国経済は“板挟み状態”

共産党政権がアリババ・グループなど高い経済成長の実現を支えた民間のIT先端企業への締め付けを強化していることも経済成長にマイナスだ。全体として、共産党政権は不良債権処理を加速させて経済全体でのアニマルスピリットの発揮を目指すよりも、党主導による既存分野の雇用の保護を一段と重視しているように見える。その発想で経済運営の効率性を高めることは難しい。

共産党政権が一党独裁体制の維持を目指して党主導の経済運営を強化する結果として、中国経済は不良債権問題への対応が遅れ、民間のイノベーション発揮も難しくなるという板挟み状態に陥っている。習氏が長期の支配体制を目指そうとすればするほど中国経済のダイナミズムはそがれ、経済の実力である潜在成長率は低下する恐れが高まっている。

真壁 昭夫(まかべ・あきお)法政大学大学院 教授

1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)



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