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「報告をしてもしなくても、結局怒られる」日本の大企業の生産性が低くなる根本原因

PRESIDENT Online

事なかれ主義へと落ちていく「サムい職場」

同じように、「仕事の基準」が低いまま、心理的安全性も低くなった「心理的安全性が低く・仕事の基準も低い」カテゴリを見てみましょう。

このカテゴリは、心理的安全性が低いため、「チームの成果のためや、チームへの貢献を意図して行動すると、罰を受けるかもしれない」というリスクある職場です。その上、仕事の基準も低いため、そのリスクを冒してまで他者と積極的に関わる必要がない、というお互いに無関心なカルチャーの職場です。

組織・チームに必要な意見の対立や相違が、この「サムい職場」では起きず、所属する人々は事なかれ主義へと落ちていきます。

成果を出すことよりも、仕事をしているフリをすることや、失点をつつかれない為に自分の弱さを隠すことへ注力し、言われたこと以上の仕事はしません。いわゆる「親方日の丸」だったり、B2Cで市場の独占・寡占が成立して「ウチは絶対に潰れない」という認識が強く、成果へのプレッシャーが低いと、このような「サムい職場」や、一つ前の「ヌルい職場」になりがちです。

反対意見を言いづらい「キツい職場」

一方、「心理的安全性は低いが、仕事の基準は高い」ような職場はどうでしょうか。これは、チームや組織からの助けや、相談に乗ってくれる人はいないが、高いノルマは課せられる営業チームを考えると、イメージしやすいのではないでしょうか。

「キツい職場」は、一見、「士気」が高く見える側面もあります。

しかし、「キツい職場」では本当に必要なはずの反対意見を述べたり、根本的な意義について問い直したり、目的を確認することは忌避されます。「余計なことは考えず、成果を出せ」と言われるのが、この「キツい職場」なのです。心理的安全性の低い「キツい職場」では、「罰を避けるため」にメンバーは努力します。

果ては「部長対策マニュアル」まで作られ…

筆者が昔、目の当たりにしたことのある「キツい職場」(誰もが知っている日本の大企業)では、部長が「すぐ怒鳴る」「報告書のミスをあげつらう」など、いわゆる厳しく統治するマネジメントスタイルでした。一方で、部長は優秀な方でしたので、自分のスタイルでは、報告が集まらないことを自覚されていたのか、「悪い話も報告はすぐ上げろ」と部下には厳しく命令していました。

部下からすると、報告しても怒られる、報告しなくても怒られるという地獄の始まりです。しかし、さらに状況は複雑化していきます。

課長が、部長の顔色やタイミングを見て「○○くん、今だよ。いま部長は機嫌がいいから、すぐ報告にいきなさい」と指示をしたり、部長が帰り際にエレベーターを待っているタイミングで、「『いま連絡があったのですが……』と伝えれば、部長も帰りたいので怒られても短時間で済む」といった「ライフハック」を生み出したのです。果ては、部内で共有回覧される「部長対策マニュアル」が整備されました。「クライアントと一緒に部長報告に行けば、クライアントの前なので怒鳴らない」「基本的に他人の意見は否定するので、情報を用意して自分で結論・方針を思いつかせる」などの詳細な記載まであるマニュアルです。

この内向きな仕事を、成果を上げる方向に向けられていたら、この部署はどれほど生産性が上がったことでしょうか。

この「キツい職場」式のマネジメントは、ついマネジャーが「厳しく指導をしている」という実感と共に陥りがちなマネジメントスタイルです。罰の大本である上司が、実際には細部まで監督しきるのは難しい上、上司が監督し切れない細部には魂が宿りません。さらに「上司対策」に時間が使われたりと、実はメンバーがポテンシャルを出し切るためのマネジメントコストが高いのです。また常に監督できなくなるため、リモートワークの状況で特にマネジメントが機能しにくいのが、この種の「キツい職場」なのです。

成果を出す「学習する職場」

最後に、右上の心理的安全性・仕事の基準ともに高い職場こそが「学習して成長する職場」です。つまり、本稿で私達が目指す、社会の変化にうまく対応し、挑戦や実践から学び、結果として成果の出る職場です。

言い方を変えれば、心理的安全性を機能させるものが「基準の高さ」であり、本稿で目指すのは、単に心理的安全性が高い(けれども基準が低い)組織・チームではなく、心理的安全性も、仕事の基準も、双方が高い成果の出る組織・チームです。

「学習する職場」と心理的安全性の高低だけが異なる「キツい職場」と比較してみると明確になることがあります。それは、どのように高い基準を保つかということです。

高い基準を保つために、「キツい職場」では罰や不安でメンバーを努力させます。「成果を出せ、さもなくば……」というスタイルです。もちろん、このスタイルでも「サムい職場」よりは成果が出るかもしれませんが、この努力の一部は、怒られないためや自分の身を守るために使われてしまいます。

「学習する職場」では衝突が多い

一方で、心理的安全性も仕事の基準も高い、この「学習と成長する職場」では、高い基準を保ち、人々を成果に向けて鼓舞するため、次の四つが努力の源泉となります。

・[サポート]成果が出ていない時にも、罰や不安ではなく相談に乗ってくれたり、アイデアをくれたりする

・[意義]組織・チーム・プロジェクトとして、大義や意味がある目標設定がされており、やりがいや成長を感じられる

・[みかえり]まだ成果には至らなくとも、望ましい努力をしている時に承認や感謝を伝えてもらえたり、より適切な行動を促してもらえたりする

・[配置]適材適所で配置されることで、自発的・自律的に努力できるようになる

このように心理的安全性が高く、仕事の基準も高い組織では、実は「衝突(コンフリクト)」が促進されます。

心理的「非」安全な職場にいた場合、「衝突」をできるだけ避けるように調整し、仕事をしてきたという方もいるかもしれません。しかし、「健全な衝突」はむしろ業績にプラスとなるのです。

石井 遼介(いしい・りょうすけ)

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 研究員

株式会社ZENTech取締役。日本認知科学研究所理事。研究者、データサイエンティスト、プロジェクトマネジャー。神戸市生まれ。東京大学工学部卒業。シンガポール国立大経営学修士(MBA)。組織・チーム・個人のパフォーマンスを研究し、アカデミアの知見とビジネス現場の橋渡しを行う。心理的安全性の計測尺度・組織診断サーベイを開発すると共に、ビジネス領域、スポーツ領域で成果の出るチーム構築を推進。2020年9月に上梓した著書『心理的安全性のつくりかた』(日本能率協会マネジメントセンター)は21刷・11万部を数え、読者が選ぶビジネス書グランプリ「マネジメント部門賞」、HRアワード2021 書籍部門「優秀賞」を受賞。

(慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 研究員 石井 遼介)



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