アイスの研究で博士号を持つ井上さん。斎藤さんに対し、「ミルクの味はシンプルだからこそ難しい。味づくりは感覚だけではなく、データも提供できるようにしてほしい」とアドバイスする。昨年6月のモウのリニューアル構想は、前年春に始まった。「よりミルクの味を出してほしい」。井上さんは受話器の向こうから、ブランドマネージャーの宇田川史郎さんの弾んだ声を聴いた。
宇田川さんの狙いは、乳脂肪分を高め、余分な香り成分を排除することでミルクの味がより感じられるようにすることだ。宇田川さんは東京都港区の本社から月に2~3度、電車で1時間半かけて座間市の井上さんの研究室を訪れる。議論が深まる中、井上さんは「より濃厚だが、後味はすっきりすること」だと受け止めた。
ただ、「乳脂肪分をあまり増やすと味がくどくなる。牧場で食べるソフトクリームのようなすっきりした後味がなくなってしまう」(井上さん)。乳脂肪分を増やすことはコスト高にもつながる。井上さんは、水あめの配合を代えたり、香り成分を取捨選択したりすることでコストを抑えただけでなく、さっぱり感とコクをそのままに残した風味に仕立て上げた。
モウのテレビCMなどを担当している広告部のアシスタントリーダー、鈴木幸世さん(36)は「モウのおいしさや濃厚感をいかに直感的に感じ取ってもらうかに腐心し、『しあわせバニラ』というキャッチコピーにたどり着いた」と語る。
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■“ごほうび商品” 高付加価値のニーズ拡大
≪MARKET≫
子供から大人まで人気の高いアイスクリーム。国内市場はここ数年、伸長している。
国内でアイスクリームの製造・販売する事業者は300社程度とされるが、全国規模で販売している大手メーカー13社で市場の9割以上を占めるという。