ただ、報奨内容を決定する裁量は最終的には企業に委ねられている。国内の研究者には「結局は会社のすき放題にできるので、すべての企業がまじめに規定を作るか疑問だ」との指摘が多い。
米国やドイツでは企業と研究者があらかじめ契約を交わし、特許の対価を細かく規定するなど権利関係を明確にしている。近年、日本でも製薬やゲーム業界などで報奨制度を見直す動きもでているが、イデア綜合法律事務所の冨宅(ふけ)恵弁護士は「社員から報奨について希望を聞く態勢をきちんと敷いている日本企業はまだ少ない」と話す。
「このままではこの国から優秀な技術者はいなくなる」
日亜化学と訴訟で争っていた当時、中村氏はそう嘆くことがあった。その言葉通り中村氏は現在、米国籍を取得し、米国を拠点に研究活動を続けている。
今後、さらなる頭脳流出を食い止めるためにも日本企業は社員の発明を評価する意識を改革する必要がある。「技術立国」の地位を守るためには、企業と社員の双方が納得できるバランスのとれた知財戦略を充実できるかにかかっている。