ピットに戻ると、しばらくしてから2階の部屋に呼ばれた。待っていたのはコバライネン選手だ。隣に座ると、PCの画面上に記者の走行データが表示されていた。これは「データロガー」と呼ばれる走行データ解析システムで、F1をはじめとするレースの現場では当たり前のように導入されている。スタートからゴールまで、自分がどこでどれだけアクセルを踏んでブレーキをかけたのか、すべてのデータがグラフや数字となって分析される。記者とコバライネン選手の走行データを比較すると、1周を通して自分がアクセルを踏んでいる時間がかなり短いのは明らかだった。必然的にタイムも遅くなる。コバライネン選手からのアドバイスはこうだった。
「あなたはコーナーに入るときにアクセルを緩めるのが早すぎる。そこでタイムをロスしています。私の場合はもっと直前まで粘ってから減速します。2回目のアタックではもっとアクセルを思いっきり踏んで、ブレーキはギリギリまで待ってください」
元F1ドライバーの貴重な言葉を胸に、2回目の走行に臨む。今回は「RC F」でアタックだ。このクルマが凄い。発進してまず感じたのが「軽い」ということだ。アクセルを踏んだときのレスポンスや加速力、豪快なエンジン音もさっきまで乗っていたクルマとはまったく違う。コーナーに入ればボディの剛性の高さに驚かされる。スピードを出しても安定感は抜群だ。直線や高速コーナーはアクセルをベタ踏み。ブレーキ性能もハッキリ言ってレベルが違う。「RC F」ならギリギリまで攻めることができると乗ってすぐに分かった。
そして「RC F」を操作するうちに、不思議とタイムへのこだわりは消えていった。なぜか。クルマを走らせる楽しさが数字への興味を上回ったからだ。インストラクターによると、2回目のタイムはかなり良かったとのこと。ラップを重ねてコツをつかめばタイムは上がるだろう。「RC F」で走ればなおさらだ。ただ、走行中に感じた興奮とクルマを操る喜びは、スピードへのこだわりをかき消してしまうものだった。
初日のプログラムはこれにて終了。タイム計測を終えた参加者たちは「気負いすぎてミスった」「タイムばかり気にして、スイッチを踏むことをすっかり忘れていた!」「やっぱりタイムを計ると燃える」など、それぞれの感想を満面の笑みで語ってくれた。
一行は「富士レクサスカレッジ」へ戻り、初日の振り返りと2日目の概要を聞いてからそれぞれ解散した。明日はいよいよ最終日。「富士スピードウェイの本コースを走ることができる」と想像するだけで、興奮のあまりなかなか寝付けなくなってしまった。