
高圧縮比と低圧縮比のディーゼルエンジンの比較(図1)【拡大】
寺沢は、このディーゼルエンジンの開発が始まった2006年当時、パワートレイン先行開発部の主幹を務めていた。そこで、低圧縮ディーゼルエンジンの実用化の可能性を調べる実験を行なったという。
具体的には、最終的に限界値以下ではないかも思える14という低圧縮のディーゼルエンジンを製作。これを氷点下30度という非常に低い温度の空間に入れて動かしてみた。しかも燃料は国内ではなく海外で出回っている最も着火性が悪いと評価されている軽油を使用した。
「とにかく回りましたよ。動きました。回れば実用化の可能性があるということです。いける! ということです」
この時点でマツダの開発陣は、それまでのディーゼルエンジン開発の常識に真っ向から逆らう方針を立てることになった。つまり従来の「高性能を狙うためにいかに高圧縮を維持しながら、高圧縮に伴う排気ガスの問題を克服するか」という発想から離れ、「排気ガスの問題を大きく改善できる低圧縮化を図りながら、同時にいかにエンジンの出力向上を図るか」という真逆の発想をもとに開発に取り組むことになった。