『遊動論』【拡大】
すでに昭和48年、氏は短文「ものと観念」などで、柳田国男の重要性をたびたび指摘していた。そして、ついに今回の本格的な柳田国男論が登場したのだ。
金融資本主義が世界をかけめぐる現在、柳田国男の「山人」「固有信仰」そして「ユイ」に注目すべきである、と柄谷氏は言う。
それは例えば、地産地消の協同組合をイメージすればよく、網野史観の漂泊民とも、フランス思想のノマドとも異なる。新たな人と人との関係=「遊動性」を描くことができるのだ。
戦後、政府の農業政策からも、また吉本隆明や民俗学者からさえも、正当な評価を受けず挫折しつづけた柳田国男。彼のビジョンには、いま最も必要な社会関係のヒントが隠されている。柄谷氏の批評作品の真骨頂は、「倫理」にあるのだ。(文春新書・本体800円+税)
評・先崎彰容(あきなか)(東日本国際大准教授)