「風の向こうへ駆け抜けろ」【拡大】
■競馬のリアル描く成長物語
18歳の芦原瑞穂は、地方競馬界にデビューした数少ない女性騎手。彼女の受け皿となったのは「藻屑(もくず)の漂流先」と揶揄(やゆ)される廃業寸前の弱小厩舎(きゅうしゃ)。調教師をはじめ、厩舎スタッフそれぞれが心に傷を抱え、レースに勝つことへの情熱はほとんど失われてしまっている。瑞穂の葛藤と成長を通じ、絆や再生というテーマが爽やかに描かれた物語だ。
女性騎手としてデビューした頃の自分と重ね合わせて読み、非常に共感した。一昔前の旧態依然とした厩舎の空気感が上手に描かれている。だが批判的に描かれているわけではなく、落ちこぼれ集団のようなメンバーが、実は競馬への情熱や愛にあふれた人々として描かれているのが良い。瑞穂の真摯(しんし)な努力と熱意により、メンバーは次第に心を一つにし、中央競馬の桜花賞を目指すこととなる。
何よりも、馬とのコミュニケーションの描かれ方が秀逸だ。訳あって言葉は話せないが、馬の気持ちを誰よりも深く理解する厩務員の誠が登場する。抜群の身体能力を持つが、虐待が原因で誰の言うことも聞かない暴れ馬フィッシュアイズを調教するとき、“邪魔をしない。嫌なことはさせない。鞭(むち)は使わない”そして“馬を信じる”と、瑞穂にメモでアドバイスする。競馬では厳しく調教するイメージがあるが、馬の心を見極め馬に寄り添うのは、素晴らしい結果を出す実際の調教師や厩務員の姿勢と重なる。