
6月まで開かれていた「週刊少年ジャンプ展VOL.2」の会場の様子=東京・六本木【拡大】
◆「強さのインフレ」的な重い目標を背負わされ
強さのインフレもジャンプから学んだことだ。『ドラゴンボール』を途中で読むのをやめたのもそこからだった。だんだん、主人公が必殺技の「かめはめ波」を出しても勝負が決まらなくなっていく。見開き全部がかめはめ波という展開を何度も見たような気がする。というか、初期から登場している主人公と修業を積んだクリリンの立場が気になってしまう。これぞ、同期トップ出世と、万年平社員の差のようなもの、か。
思うに、我々中年は「友情、努力、勝利」はビジネスの世界では必ずしも通用しないことを思い知らされた上、実力主義で働かされ、理不尽な展開や、強さのインフレ的に重たい目標を背負わされたりと、まあ辛い思いをしてきた。これぞ、ジャンプが予言してくれたことじゃないか。
同僚に足を引っ張られたりすると「友情」とは何か信じられなくなる。しかし、異動、転勤、出向などはジャンプ的な無理ゲー的展開だとも言える。昇進・昇格したところで、さらなる敵が現れてくることはジャンプが予言していたことだ。何よりも、毎回、査定があるたびに、読者アンケートと理不尽な強制終了・続行を思い出してしまう。
保身のためにくれぐれも言うが、ジャンプのことを嫌いなのではない。でも、本当に学んだのは実はこういうことだったのじゃないか。『北斗の拳』の悪役、アミバの名セリフ「暴力はいいぞ!!」ではないが、「社会人は、いいぞ!!」と言われ続けているような気がする。『北斗の拳』のケンシロウに「お前はもう死んでいる」と言われないほどに、魂は死んでいないのだが。
【プロフィル】常見陽平(つねみ・ようへい)
千葉商科大学国際教養学部専任講師
働き方評論家 いしかわUIターン応援団長
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。リクルート、バンダイ、クオリティ・オブ・ライフ、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。専攻は労働社会学。働き方をテーマに執筆、講演に没頭中。主な著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。
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【常見陽平のビバ!中年】は働き方評論家の常見陽平さんが「中年男性の働き方」をテーマに執筆した連載コラムです。更新は原則第3月曜日。