元資金拡張と比例する中国の軍拡
国際政治経済学入門北京では毎年恒例の全国人民代表大会(全人代=共産党が仕切る国会)が3月5日から開催中だ。会議の前日、2016年度の国防費が前年度実績比7~8%増になる見通しが発表された。国防費が1桁の伸びにとどまったのは10年度予算案以来だが、なお国内総生産(GDP)の成長率を上回る高水準だ。経済が停滞しても、軍拡の支障にならないのはなぜか。
ずぬけた増殖力
軍事とはしょせんカネがものを言う。筆者のみるところ、中国の軍事費膨張を可能にしているのは、中国の通貨制度である。中央銀行が供給する資金は「マネタリーベース」と呼ばれるが、党が支配する中国人民銀行が外部から流入するドルなど外貨を商業銀行から買い上げ、マネタリーベースをその分増やすというのが、基本的な中国のマネー創出システムである。08年9月のリーマン・ショック後、米連邦準備制度理事会(FRB)は3度にわたる量的緩和(QE)に踏み切り、14年10月のQE終了時点で、リーマン前に比べたドルの資金供給(マネタリーベース)残高を4倍に増やした。
ドル資金の増加相当額にほぼ見合う外貨が新たに中国に入り、人民銀行はやすやすと米QEによるドル増加額並みの人民元資金を追加供給してきた。
人民銀行から商業銀行につぎ込む人民元資金は不動産開発向けなどに融資される。さらに預金となって銀行に還流し銀行は新たに融資するという「信用創造」が活発になる。人民銀行が資金を「1」供給すると、現預金はその5倍以上に増えている。その比率は「信用乗数」と呼ばれるが、最近のデータでは日本は「0.4」、米国は「1」程度である。中国のマネー増殖力はずぬけている。中国の現預金総額は15年末で21.6兆ドル(約2600兆円)、実に日本の2.8倍、米国の1.7倍に達した。
札を刷って兵器調達
以上の構造を念頭に置いた上で、グラフを見ていただこう。
米中のマネタリーベースと中国の軍事費の推移である。一目瞭然、中国の軍拡はリーマン・ショック後に加速している。上述の通り、リーマン後の米QEとともに、人民元のマネタリーベースが飛躍的に拡大し、それに引き上げられる形で軍事費が膨張している様子がわかる。マネタリーベースの5倍以上の速度で現預金総量が増え、しかもそのドル換算額は、元の対ドル相場管理のために安定している。膨らむマネーを背景に軍事費に資金が投入されるわけである。その元が国際通貨となれば、元を刷ってロシアなどから兵器を調達できるし、インフラ整備と称してアジアに軍事兼用の高速道路、港湾、鉄道を敷設できる。
アジア安保上の脅威は、単に南シナ海での軍事基地建設にとどまらず、全域が中国の勢力圏になるという構図にある。そのパワーの源泉が元であり、国際通貨になれば威力は何倍にも増大しよう。
SDR入り資格なし
通貨問題を財務官僚に全面的にまかせるわけにはいかない。早い話、人民元は今年10月から国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権(SDR)構成通貨として加わり、円を押しのけてドル、ユーロに次ぐ世界第3位の国際主要通貨の座に着くことが昨年11月のIMF理事会で決まった。IMFへの資金の出し手としては最も気前のよい日本は、米国を説き伏せて、阻止できたはずだったのだが、財務官僚は「SDR入りに実質的な意味はない」とうそぶいて、北京が繰り出す根回しのなすがままにまかせた。
人民元が国際通貨になれば、元決済に応じる国が増えていく。すると、北京はドルの流入を気にせずに元資金を存分に発行し、そのカネで軍事技術を導入できる。ドル資金調達難の中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)は元資金を相手国に融資し、軍事に転用できる高速道路や港湾をアジアで建設できるようになる。
グラフは、15年にドル資金の発行減とともに元資金の供給量がガタ減りしていることを示している。SDR通貨の一角を占めることはドルの制約から元を解き放つ道を開くことになる。安倍晋三政権はSDR通貨の条件である金融・資本の自由化にはほど遠い元にSDRの資格はないと主張すべきだ。(産経新聞特別記者・編集委員 田村秀男/SANKEI EXPRESS)
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