61式もまた防衛庁長官の開発指示(55年)から7年近く、《中戦車》ではなく《中特車》と呼ばれていた。こちらは機密保持に向けた高尚な工作ではない。憲法上の制約をすり抜けようと、「自衛隊は軍隊にあらず」を強調する哀れな造語。しかも、晴れて《戦車》となって2年以上たった64年上映の東宝映画《モスラ対ゴジラ》では依然、《特車》と銘打った61式(実はM24を加工)のミニチュアが登場した。真意は定かではないが、それだけ国民は「軍隊=悪」という反戦左翼思想に、今以上に汚染されていたに違いない。10年近く前、講演後に主婦の質問を受けた。
「陸自には普通科(歩兵)だけでなく、商業科もあるのですか?」
自衛隊を知ろうとする前向きな主婦の無垢な意欲、国防に対する教育の欠如、いまだ歩兵などへの呼称復帰を決断しない国家的怠慢…。数多(あまた)の理由で笑うことはできなかった。(政治部専門委員 野口裕之/SANKEI EXPRESS)