滑り止めも自分で捕った鹿のすねの毛皮。その形を生かしてスキーの先端を包み、短い毛皮を何枚も丁寧に継ぎ足して板の裏に貼りつけている。手作りのスキーそのものがタイガの恵みなのである。
≪自然と人が描く冬のタペストリー≫
真冬のビキン川は表面こそガチガチに凍っているが、豊富な湧水のおかげで氷の下はよどみなく水が流れている。凍(い)てついたガラスに似た、ひたすら透明で冷たい冬のタイガの空気を吸いながら、川の上をスキーで闊歩(かっぽ)する。それだけでもここに来たかいがあると思う。
靴だけで歩くより、スキーは氷の踏み抜きが少ない。スノーモービルとくらべて何より音が静かだし、燃料も必要ない。そして自分の足と素朴な道具で歩くスピードが、森をじっくり見て、感じ取っていくのにちょうどいい。立ち止まって耳を澄ませば、氷下の水の音が聞こえてくる。タイガの静寂な気配が体に染み込み、自分自身もタイガに包まれていく感覚がたまらなく心地いい。
雪に覆われたビキン川は一見、どこも同じような単調な風景が広がる。だが足元に目をこらせば、氷上には風が残したさまざまな雪の紋様がある。氷の中には気泡が閉じ込められ、その不思議な抽象に見入ってしまう。