ところどころの開氷面には森から水を飲みにきたシカたちの足跡が続き、小さな氷の窓に、さらに小さなカワガラスの足跡がちょこちょこと出入りしている。たとえ姿はなくても、そんな痕跡にふれるだけで、氷と雪の世界に血が通ったように感じる。振り返ると広い雪原に僕のスキーの跡がジグザグの影を刻んでいる。タイガの風や動物たち、そして人の痕跡もが冬ならではのタペストリーを描いていた。
ふと蒼(あお)い氷の上に落ちた一枚のアムールシナノキの葉に目がとまった。枝につく葉ではなく、果実についていたものだ。直径1センチ弱の丸い実はどこかで落ちたのか、あるいは鳥に食べられたのか。木は種子をできるだけ母樹(ぼじゅ)から遠くまで飛ばそうとさまざまな工夫を凝らしている。シナノキの場合、果実についた長い葉が翼やプロペラの役目を果たし、風に乗って飛んでいく。氷雪の紋様の中にぽつんと落ちて日に照らされた葉は、凍てついた氷海を漂う小舟のようで目が離せなかった。冬のタイガで出会う風景は、いつしか人の存在と重なって見えてくる。