ここで私は更に歩を緩めるという新案を思いつき、慎重に、しかしあまり時間はかけたくないのでそれなりに大胆に歩を更に緩め、また更に更に緩めた。すると身の毛もよだつざるっちぇの音が一段と大きく大きく響いたかと思うと、私の横をこの世の終わりのような表情で、やっぱり地面をじっとりと見つめながら、至近距離で見てもどうやって奏でているかわからないアスファルトの蹴り方で、ざるううっちぇええ、ざるううっちぇえええ、と通り越して行った。足音ひとつで拷問のようになるものなのだなあと感心しつつ、足早に脇道へと逃げ込んだのでした。(演出家 長塚圭史、写真も/SANKEI EXPRESS (動画))
■ながつか・けいし 1975年5月9日、東京生まれ。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を結成。ロンドン留学を経て、新プロジェクト「葛河思潮社」を立ち上げた。昨年12月に上演した「マクベス」(長塚圭史演出)が2月15日午後8時30分から、WOWOWライブにて放送予定。