ソチ冬季五輪のノルディックスキー・ジャンプ男子ラージヒルで銀メダルに輝いた葛西紀明は、2位と分かった瞬間、一瞬だけ天を仰いだ。「祈る気持ちだったけど、(優勝した)ストッホにあそこまでのジャンプを飛ばれたら無理」。仲間に囲まれ、悔しさはすぐに押し殺した。本当に惜しかった。ストッホとの差はわずか1.3点。飛距離換算すれば70センチほどの差だった。
メダルのチャンスもあったノーマルヒルの2回目に力んでミスをした反省から、この日は1回目でトップ3につける作戦を立てた。助走直前に「リラックスするのと上半身の力を抜くため」とあえて笑みもつくった。そして1回目は、ヒルサイズまで1メートルに迫る139メートルの大ジャンプ。2回目はめまぐるしく変わる風の中、133.5メートル。最後に飛んだストッホは132.5メートルだったが、着地の際に足を前後に広げるテレマーク姿勢の美しさが、2回とも相手の方が上だった。腰の痛みもあり、葛西は万全の着地姿勢が取れなかった。
優勝は逸したとはいえ、立派な銀メダルだ。横川コーチは「長年、追い求めていたジャンプが出たと思う。空中の進みは世界で一番速いし、難しい風の中で確率が高い」と称賛した。