ヴァロットンは、スイスのローザンヌ生まれ。スイスで大学まで進んだ後、パリに出て、30歳ぐらいからは、ゴーギャンの流れをくみ独特な色使いで知られる「ナビ派」に属した。しかし、ヴァロットン自身は実験的な絵を繰り返し描き、ナビ派の中では「異邦人」(いまでいう宇宙人?)と呼ばれるほど、ナビ派主流の画家ドニやセリュジエらとは画風を異にした。美術史上でもいまだに評価の定まらないところがある。
一時は、無政府主義にも傾倒した。ところが、画商の娘で、3人の連れ子のある裕福な未亡人ガブリエルと結婚。暮らしは安定し、スイスにはパトロンもできたが、家庭での愛情にはあまり恵まれなかった。どこにも安住できないヴァロットンの“引き裂かれた人生”は、どこか現代人にもオーバーラップする。
浮世絵に影響
ヴァロットンは、ジャポニスム(日本趣味)、とくに浮世絵に大きな影響を受けた画家でもある。浮世絵の収集家でもあり、黒の部分が多い木版画の手法は、明らかに浮世絵の影響だ。