【本の話をしよう】
我輩は男である-。作家、藤田宜永(よしなが)さんの新刊『女系の総督』はこんな一文から始まる。女系一家のただ一人の男として一家をまとめあげていく「総督」の物語。家族、仕事、恋、健康…人生の全てを詰め込んだ直木賞作家の集大成だ。
出版社に勤める59歳の森川崇徳(むねのり)は、姉と妹に挟まれて育ち、結婚してできた子供も3姉妹。おまけに飼っている2匹の猫もどちらもメスというまさに女系一家の家長だ。妻は十数年前に亡くなった。熱帯雨林のごとく熱気をまき散らす女たち。自分は「植民地の熱帯雨林を監視管理する『総督』」だと人に言われたが、黙ってほほ笑むしかない-。
「この作品のヒントを与えてくれたのは、カミさん(作家の小池真理子さん)です。カミさんはふたり姉妹の長女。よく妹と電話でけんかをしているんですが、3日後にはケロッとまた長電話をしている。振り子の揺れがすごく大きい。男にとってはよく分からない。そんな女性に囲まれている男の話を書こうと」