政権は特に、「親露派の指導部に浸透した露民族主義者が、ロシア人の国家を建設するとの論理で行動し始めた」(在モスクワ消息筋)という点を警戒した。民族主義が自国内に波及すれば、多民族国家ロシアの存立基盤が揺らぎかねないためだ。
プーチン政権は他方、米欧の要求に屈して親露派武装勢力と「決別」することもできなかった。露主要メディアは親露派を「善玉」として報じ続けており、それを見捨てることはクリミア併合で掲げた「同胞の保護」という大義に反する「弱腰」と映るからだ。ウクライナに圧力をかける“道具”を失うわけにはいかないとの考えもあっただろう。
こうして“火遊び”が手に負えなくなりつつあった中で起きたのが、マレーシア機の撃墜事件だ。これに先だってウクライナの軍用機が相次いで撃墜されていたため、親露派武装勢力の手にしていた武器はかなり高度化していたと考えることができる。米欧は、親露派がロシアから入手した地対空ミサイルでマレーシア機を撃墜したとの見方を強めており、プーチン政権は追加制裁を免れない方向だ。