とうとう痺(しび)れを切らした串田さんが音響席に走って直接指示を出し、即興で録音された音を突っ込むと、突然現場に一陣の風が吹く。熱が生じた。主演3人の目も輝いた。追い詰められた3人の悪党の末路に相応しい、暗く汚れた裏道を歩き続けた3人の最期に相応しい、走馬灯とも混沌ともいえぬ場面の核なるものが見えかけた。私を含めた各パートのスタッフが深夜まで話し合う。串田さんの示した即興の危うさを、果たしてどうやって全公演で新鮮に保つことができるのか。ただ壊すだけでは作れない。壊す基盤がなければ筋を失う。この夜作り上げた大方針は、翌日見事に終幕の大立ち回りをつまらないものにした。けれどこれはある程度予測できたこと。ここから増減させてゆく。骨組みだけなのは、わかっている。
勘三郎さんをほうふつ
初日も目前に控えたこの時点でまだまだここからやるのかと、途方もない現場だなあとつい客観しかけたところで、勘九郎さんが串田さんと私を呼ぶ。このラストの大立ち回り、劇中夜鷹のおとせという重要な役を演じた中村鶴松くんは捕手の一員となって、白四天を着て参加しており、カーテンコールも着替える時間はないのでそのままの姿で出ている。その相手役、十三郎を演じる坂東新悟くんはこの立ち回りには参加していない。