≪小舟に詰まった自然と人の知恵≫
猟師がオモロチカに乗り込み独りで夕暮れの森に消えてゆく姿は、人がタイガや動物たちの世界に音もなく溶け込んでいくような独特の一体感がある。舟の材料自体、タイガに生えた木でまかなえるということも素晴らしい。
ある夏の終わり、ベテラン猟師のイワン・ゲオンカを訪ねると、もう少しで完成するというオモロチカを見せてくれた。削りたての木肌がまぶしい。
「材料はアムールシナノキだ。倒してからすぐ作り始める。生木の方が柔らかくて削りやすいし、割れづらいんだ。作っているうちに割れてきたら水をかけて湿らせながら進める。できた後も直射日光に当てず日陰でじわじわ乾かす。丁寧に使えば10年はもつよ」
木を削る道具は短めの手斧と日本の大工の“ちょうな”をぐっと短くしたような道具。いずれも舟の曲面を削り出すため丸みのある刃がついている。道具自体きわめてシンプルだ。イワンいわく、塗装すると音が響くので削り出した木肌のままがいいという。