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【溝への落とし物】腹の立つこと 本谷有希子 (2/4ページ)

2014.9.29 15:40

ずっと見ていたら、だんだん美しい光景に思えてきたので撮影(本谷有希子さん撮影)

ずっと見ていたら、だんだん美しい光景に思えてきたので撮影(本谷有希子さん撮影)【拡大】

  • 劇作家、小説家、演出家、本谷有希子さん(本人提供)

 家の持ち主が、汚いから嫌だと断っているのに、映されたくないと拒んでいるのに、それに対する返答が「いいですよ」とは、何事か。よく考えると、少し、いや、かなり論点がずれているのである。「散らかっていても大丈夫、気にしない」という気遣いだろうか? だとすれば、そりゃあ、あの若いリポーターは大丈夫に決まっている。散らかっている家として全国に部屋の様子を放送されるのは、主婦とその家族ではないか。にもかかわらず、あかの他人が一体なんのつもりで「いいです、大丈夫」と許可していたのか。一見、変哲もない会話だが、実はまったくつながっていない。

 自分もどちらかと言うと、他人の言葉にあっさり惑わされてしまうところがあるせいで、余計腹が立ってしまうのかもしれない。私の中の「会話のずれ」に対するセンサーが敏感に反応し、思わず、包丁を握る手に力が入る。

 そう考えれば、子供の頃から、この「会話のずれ」というものに強い興味を覚えていた。それをはっきり意識したのは、少しずつ水の温度をあげていくと、ヤカンの中で茹でられたカエルは、熱いと気づかないまま死んでしまうという話を聞いたときだったと思う。ああ、そうか、そうやって騙(だま)していくのか! と妙に興奮したものだ。

強引に言いふくめる不快さ

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