会話をずらすなら、大胆で、緻密で、独創的であってほしい。「大丈夫いいですよ」の一点張りで、買い物帰りの相手を強引に言いふくめるなんて、不快で見るに堪えない。それになんと言っても、こんな強引なずらし方では、相手が気持ちいいはずがないではないか! 弱火にかけられ、じっくりじっくり茹でられていたカエルは、おそらく自分が絶命する直前まで、「いい湯だなあ」と極楽気分だったに違いないのである。
ああ、腹が立つ、あのリポーターの言いぶん腹が立つなあ、とますます白菜を切る手に力がこもる。(劇作家、演出家、小説家 本谷有希子/SANKEI EXPRESS)
■もとや・ゆきこ 劇作家、演出家、小説家。1979年、石川県出身。2000年、「劇団、本谷有希子」を旗揚げし、主宰として作・演出を手がける。07年、「遭難、」で鶴屋南北戯曲賞を受賞。小説家としては短編集「嵐のピクニック」で大江健三郎賞、最新刊「自分を好きになる方法」(講談社)で、第27回三島由紀夫賞を受賞。