作家招き入れ
だが、話を元に戻していくと、この1917年に書かれた作品ばかりを相手の胸元に押しつけても、なかなか読者になってくれる人は多くない。観光資源にも、なりにくい。当時と違って最近は、人が本を読まない理由はだいたい1000通りくらい準備されている。多忙、老眼、本のタイトル過多…、などなど全て挙げるのはやめておくが、とにかく人が本から離れてしまっている現状では、本が人の生活や動きについていかなくてはならない。
そこで、城崎の町から生まれる新しい物語をつくろうと考えた。城崎の小説も現代版にアップデートしなければというわけだ。タフな現代を生きる作家を城崎温泉に招き、その経験を物語にしてもらうという「アーティスト・イン・レジデンス」ならぬ、「作家・イン・旅館」のプロジェクトを開始させたのだ。
白羽の矢を立てた書き手は、万城目学。代表作をいくつも持つ人気小説家は関西の磁場を物語の中に取り込むのがうまい。『鴨川ホルモー』で京都、『鹿男あをによし』で奈良、『プリンセス・トヨトミ』で大阪、『偉大なる、しゅららぼん』で滋賀。