≪スケールの違う自然 気軽に楽しむ≫
私が初めてエメラルド湖を訪れたのは今から20年前の1994年。専門の薬理学の世界大会がカナダ・モントリオールで開催され、関連の集会がバンフで開かれたのに乗じて車を飛ばした。
本当はウォルコット採石場まで行きたかったのだが、事前に国立公園管理事務所の許可が必要で、しかもワプタ山麓にあるタカカウの滝から高度差750メートルの山道を片道5時間かけて登らなければならない。時間もなく登山はあきらめたが、エメラルド湖の深い緑とタカカウ滝の豪快な眺めに魅了された。
獣医師であり、薬理学者である私の学問的な基礎は生物学だ。ただ、60年代に大学を卒業してから約30年間は薬の研究に没頭し、生物の進化に興味はなかった。
そんな私が進化論に興味を持ったのは、91年に日本で出版されたドーキンスの著書『利己的な遺伝子』がきっかけだ。この本で示された「遺伝子が生物の行動をコントロールする」という考え方は、「遺伝子は動物の設計図に過ぎない」というそれまでの多くの人の思い込みを根底から覆した。「人間とは何か」という古くて新しい問題に、「利己的な遺伝子」という観点を持ち込むと新しい答えが出てくる。そんな考え方に大きな影響を受けた。