≪巡る命 やがて川辺の緑に≫
またあるときはこんな川に出合った。
くるぶしほどの水深の川に、数千、いや数万匹というサケの群れが海から押し寄せてきた。身をよじらせ強引に急流をのぼる大群に水が蹴散らされ、川全体があたかも沸騰しているかのようだった。
ふと見ると、川岸の一画に2頭のヒグマが座っている。サケを食べているようだが、他のクマのように川に入って獲物を捕まえている様子はない。ずっと同じ場所に座ったきり、いつまでたっても腰を上げようとしないのだ。
その理由がわかったとき、思わず腹を抱えて笑ってしまった。川からはじき出されたサケが、そのクマたちの目の前に飛んでくるではないか。クマは労せずして獲物にありつく。好物である卵や皮だけを食べ終わるやいなや、また次のサケが飛んでくるのだ。回転ずしさながらの光景。延々とそれを繰り返したのであろう。クマたちが陣取る岸辺にはおびただしい数の赤身だけが横たわっていた。
その死骸はカモメがついばみ、排泄(はいせつ)物に姿を変え川辺の緑を潤してゆく。巡る命。そのありようはさまざまである。(写真・文:写真家 松本紀生/SANKEI EXPRESS)