琵琶湖のニゴロブナをモチーフに、壁画を制作する壁画絵師、木村英輝さん=2014年7月30日、東京都中央区のメルクロス本社(田中幸美撮影)【拡大】
「いきおいあるな。もうガーッといっとる」。ビジネスホテルのフロントの吹き抜けになった真っ白い壁面に、何匹ものコイが現れた。竹ざおの先端につけたチョークで一気に下書きをしたと思ったら、今度は鮮やかな金色の縁取りを描き込んでいく。
ものすごい勢いで筆を走らせているのは、京都を拠点に活躍する壁画絵師、木村英輝(ひでき)さん(72)。人はみな親しみを込めて「キーヤン」の愛称で呼ぶ。キーヤンは、ここ十数年で京都市内を中心に150点以上の壁画や屏風(びょうぶ)絵などを描いた。依頼されれば海外まで出かけて制作する。動物園には今にも壁から飛び出してきそうな大きな青いゴリラを描き、中華料理店の天井にはおいしそうなエビが泳ぐ。
もともとはロックのカリスマ・イベントプロデューサーだった。本格的に絵筆を握り始めたのは還暦に近づいたころのことだ。画家ではなく、絵師。「額に入った絵は好かん。生きた絵を描きたいんや」。キャンバスではなく、市中の建物や屏風を舞台に生命を吹き込んでいく。
自由に描かれた大胆な構図、金で縁取りされた華やかな画面。そんなキーヤンこそ現代の「琳派(りんぱ)」と推す声がある。