高松次郎(1936~98年)の回顧展「高松次郎ミステリーズ」__「No273(影)」1969年(東京近代美術館蔵)。(C)The_Estate_of_Jiro_Takamatsu,Cortesy_of_Yumiko_Chiba_Associates【拡大】
【アートクルーズ】
約半世紀前、「影シリーズ」などで現代アートの旗手として脚光を浴びた高松次郎(1936~98年)の回顧展「高松次郎ミステリーズ」が、東京国立近代美術館(東京都千代田区)で開かれている。遠近法や言葉のウソなど私たちが当たり前だと思って事物を見てきた「認識の汚れ」を、次々はぎ取ってきた高松。その謎に満ちた難解な作品を丁寧に読み解いている。
「遠近法の椅子とテーブル」を見てほしい。正面から見た写真では整然と並んだテーブルと4脚の椅子だ。ところが側面から見てみると傾斜でゆがみ、とても座れるような代物ではない。種を明かせば、1つの消失点に線が向かう遠近法(一点透視図法)にのっとって3次元の空間を2次元の製図に落とし込み、さらに、それを3次元に再構築した作品。
遠近法は「形式」にすぎない
手の込んだ技法で高松が伝えたかったのは、遠近法というもっともらしいシステムにウソが潜んでいること。遠近法はルネサンス期の15世紀から、風景画では500年も用いられ常套(じょうとう)化したが、私たちの生理的な視覚とは無関係の一形式にすぎないことを思い知らされる。