写真家の顔も持つ永瀬正敏さん。「祖父が写真館を経営していました。でもカメラを持ち逃げされ、廃業しましてね。僕は祖父の悔しさも胸に抱いて活動しています」=2014年12月9日、東京都港区(野村成次撮影)【拡大】
脚本 みんなでより自然に
自然な演技の追求という意味では、台湾人のマー監督も必死だった。「この日本語の表現はおかしいですか」と何度も永瀬に確認したうえで、「より自然な表現に直してほしい」とリクエストしたという。「直訳としては正しいせりふだけれど、会話の表現としてはどこかぎこちなく、普段は口にしない日本語もたくさんあり、みんなで脚本をより自然なものにしていきました」と永瀬。撮影の合間も、身を削るようにして、せりふのほとんどが日本語で語られる作品に磨きをかけ、育てていった。
嘉義農林が誇る4番でエース、卒業後は日本に渡り、早稲田大学野球部で大活躍した呉明捷(ご・めいしょう)主将(1911~83年)を演じたのは、俳優と大学野球の現役外野手の二足のわらじを履くツァオ・ヨウニン(曹佑寧、20)。本作に出演するまで演技の経験はなかったが、今や国民的スターとなり、台湾金馬奨(台湾のアカデミー賞)では見事、新人賞にノミネートされた。「永瀬さんとは師弟関係」と公言するほど、2人は撮影を通して仲良しになった。「天は二物を与えることもあるんですね。たまにキャッチボールをしましたが、素人の僕が見ても彼の球の切れが違う。あと、ものすごいいい体格をしているんですが、中身は温厚でシャイでかわいらしい男の子なんですよ」。永瀬はツァオがかわいくてしかたないらしい。