彼女は日光東照宮・唐門の前に立っている。白に金を組み合わせた、華やかなデザインの建築である。
この、一種の金ピカ趣味ともいえる華やかさについては、好き嫌いが激しい。「嫌い派」の代表は、1933年に日本を訪れたドイツ人建築家、ブルーノ・タウトである。彼は日本の美学を2つに分類した。桂離宮、伊勢神宮に代表されるシンプル派はすばらしいが、日光東照宮に代表される悪趣味は許せないとしたのである。さらに彼は桂離宮や伊勢神宮の背後には天皇家の美学があり、東照宮の背後には、江戸の将軍の俗悪趣味があると断定して、日本の美学と政治とを強引に結びつけたのである。
実は僕も、若い頃はタウトの分類に100%賛成だった。しかし最近、東照宮の金ピカも、結構面白いと感じるようになった。
日本の美は実は多様である。ワビ・サビや渋さだけではなく、想像以上に、懐が深い。金色が、畳に反射した弱い光を受けて闇の中に浮かびあがる様子に日本の空間表現のひとつの頂点を見出したのは、「陰影礼賛」を書いた谷崎潤一郎である。日光のあの深い杉林の中に東照宮の金色が立ちあがるのをみて、僕は戦慄を覚えた。この唐門もまた、着物と同様に日本の美のひとつの頂点である。(エッセー:建築家 隈研吾(くま・けんご)/撮影:ファッションプロデューサー 大出一博(おおいで・かずひろ)/SANKEI EXPRESS)