俳句の吟行のように、訪れた場所で創作するという即興の精神は、今回の展覧会でも発揮された。展示会場の壁に、フタのついたカップヌードルの容器が「ヌードル・フォール」という名前で展示されている。「フタの絵がまるで抽象絵画のようだった」といい、ふたにプリントされたヌードル(うどん)を垂直に流れ落ちる「滝」になぞらえた。
缶も果物も体も「器」
オロスコは、開幕日の1月24日、講演会の中で、自分の作品について語った。その中でたびたび出てきた言葉は「器(うつわ)」あるいは「容器」。
オロスコによれば、缶や果物、箱そして自分の体までもが「器」なのだという。その器の中に、さまざまなものを盛りつけ、満たしていくことが創作だというのだ。こうした考え方も日本の「見立て」に通じるものがある。
しかし、オロスコの作品は、メキシコ出身という国籍の独自性や言葉の壁、歴史観などの違いが感じられず、国籍を超えて分かりやすい表現だ。さらに戦後から1960年代ごろまでのアートに顕著だった破壊性や攻撃性は薄らいで、親和性や叙情性(詩情)が伝わってくる。そのことが、国際的に愛される理由だろう。