二人が編み出したのは、時間の最初は無限大の密度と時空歪曲率がつくりだした特異点だったのではないかというものだ。特異点定理と名付けられた。しかし、これでは相対性理論と量子論がうまく噛み合わない。そこで次には虚時間を想定した。宇宙の最初をとことん追いかけると時間は0になって、無が入ってしまう。無がまじったのでは科学も数学もない。だったら0以前までを虚時間として入れて、それで数式を組み立てようというのだ。これなら計算可能なのである。
その後、この仮説にはいささかムリがあることがわかってきた。しかしホーキングはまったく怯(ひる)んでいない。それどころか、宇宙138億年の歴史を科学者が語れるとはどういうことなのか、その必然性の解明に乗り出した。そのことを電子仕掛けのプログラム「リヴィングセンター」を介して語るホーキングを、ぼくは朝日ホールでナマで見たことがある。なんとも輝くような執念と勇気を感じた。それからというもの、ぼくはすべてのホーキングものを読んできた。