クラスヌィ・ヤール村から冬のタイガへ向かう旅は刺激的だ。遠い狩小屋を目指す時はウデヘの猟師が操るブラン(ロシア製スノーモービル)に乗る。バランスをみて2人乗りするか、後ろにつないだ荷台に座るのだが、スピードを上げると猛烈な雪しぶきと寒風をまともに浴びて、文字通り顔が凍りつく。
せっかちな猟師のアンドリューシャは、走り出したら止まらない。困ったことに大きなエンジン音のせいで荷台からでは運転手になかなか声が届かず、振動でお尻が裂けそうでも、寒さで脳天がしびれて気が遠くなっても耐えるしかない。こんな疾走はいつ以来だろう…。振り落とされぬよう必死にしがみついているうちに、いつしか雪に包まれた迷宮のような森に入り込んでいる。
そうして突如ブランが止まり、エンジンが切られる。その後の静寂がたまらない。
王者のようにそそり立つチョウセンゴヨウ。雪の中にたたずむ無数の樹々。タイガの懐は凛(りん)とした寒気と樹々の精気に満ち、ひどく心地がいい。