≪力強く個性豊か 樹々と村人が重なる≫
森に囲まれた狩小屋に落ち着けば、そこからはスキーの出番だ。ブランの騒音が大きかった分、スキーで歩き出すと耳が息を吹き返したように鋭敏になる。
木板から削り出し、裏に毛皮を張ったウデヘ伝統のスキー。靴は簡素なゴムや皮などのバンドで固定する。スキー場を滑るための道具ではなく、あくまで雪深い森を歩き、動物たちを追う狩猟用だ。だから騒音が少ないのだ。それでも一人で静かな雪の森を歩いていると、スキーが雪を踏む音や服のこすれるわずかな音が妙に大きく感じられ、自分がタイガに紛れ込んだ一頭のガサツな動物に思えてしまう。
雪にはアカシカやイノシシ、クロテンなどさまざまな動物の足跡が残るが、陽が高いうちにその姿を見るのはまれだ。村の猟師は腕がたつので、不用意に出歩く動物は生き残れないのである。
その代わりスキーでゆっくりタイガを徘徊(はいかい)すると、林立する樹々の姿を思う存分眺めることができる。夏には深い藪で入れなかった場所も、スキーがあれば自在に近寄れるのがいい。冬はこちらも寒い分、その一角にじっと根を下し、マイナス35度にもなる寒さに耐える樹々に、しみじみと心を寄せることができる気がする。