日本に桜の名所は数かずあれど、この桜を抜きにしては語れないと思っている。皆さんのお好きな桜は、どこの桜だろうか。(エッセー:作曲家 三枝成彰(さえぐさ・しげあき)/SANKEI EXPRESS)
≪花見を支えるクローン技術≫
日本人はずっと昔から桜が好きだった。万葉集にヤマザクラの色香や散っていくさまを詠んだ歌がたくさんあることから分かるように、日本人は太古から野山に春を告げるヤマザクラを好んで鑑賞していた。
ただ、ヤマザクラは花が咲くときに赤い若葉が一緒に広がるので、いわゆる葉桜になりやすい。この観賞用としての難点を品種改良の末に克服したのが、江戸末期に出現したソメイヨシノだ。ソメイヨシノは江戸の庭園文化を支えた庭師たちの拠点だった染井村(現在の東京都豊島区)で、吉野桜として売り出された。花が散りはじめるころに葉が広がるので、咲き始めのときに花だけを満喫できるし、成長も早い。このため、明治時代になると、またたく間に日本全国で植栽された。