【続・灰色の記憶覚書(メモ)】
愛すべきひねくれ者
フランシス・オブロコハウスの話をしよう。もう30年以上前にわが家で同居していた血統書付きのヒマラヤンのことである。彼はまだ幼い私や姉のことを完全に軽蔑、すなわち、たやすく出し抜けると信じており、事実私たち子供の目を盗んでは、家から飛び出し頻繁に行方をくらまし、隣家の魚を盗むなどする傍若無人ならぬ傍若無猫ぶりであった。それでいて間抜けなところもあり、アパート3階のベランダに盗み出る度、足を滑らせ、一階の八百屋のテント屋根に落下していた。ややこしいのは、当時暮らしていたアパートはペット禁止であったゆえ、大家の経営する八百屋にヒマラヤンが落ちて来るというのは大変に間違った、困った話であって、一体母がどう誤摩化していたのか想像もつかないが、わが家と同じ階に暮らしていた他の2世帯とも、やはり猫を飼っていたことを思うと、昭和のアパートメントらしい、あってないような緩やかな規則になっていたのかもわからない。