3月12日深夜、若狭井(わかさい)からお香水を汲み上げる儀式「お水取り」が行われる。練行衆(れんぎょうしゅう)の道明かりとして、大きな松明(たいまつ)に火がともされる=2015年3月11日、奈良県奈良市の東大寺(井浦新さん撮影)【拡大】
「お水取り」の発生にちなんだ故事が面白いので紹介したい。実忠和尚が、「修二会」の「六時」(後述)の行法を始めた当時、「神名帳」を読んで全国の神々を二月堂に勧請(かんじょう)した。諸国の神々が競って二月堂にやってきたが、若狭の遠敷明神(おにゅうみょうじん)だけが、釣りに興じるあまり遅刻してしまった。遅れたおわびとして、閼伽(あか)水を献納すると約束した。その瞬間、白と黒の二羽の鵜(う)が磐石を割って地中から飛び出し、2つの穴から甘泉が湧き出して香水が充満したので、石で囲って閼伽井(あかい)とした。現在、二月堂の下にある若狭井(わかさい)という井戸がそれであり、以後毎年3月12日の夜半すぎに、香水をくんで観音菩薩にお供えすることになった。そこから「お水取り」が生まれたというのである。神々の人間味あふれるエピソードは、どことなくユーモラスで、ほほ笑ましさすらある。
≪壮絶な祈り 1250年間絶えることなく≫
この法会の意味は、人間の貪欲、瞋恚(しんに)、愚痴の三毒は、さまざまな罪を生み、それが心の穢(けが)れとなって蓄積され、正しいことが見えなくなる。そこでその罪障をざんげし、清浄な身心を得ることで、禍や災難を取り除き、幸福を招こうというのである。