3月12日深夜、若狭井(わかさい)からお香水を汲み上げる儀式「お水取り」が行われる。練行衆(れんぎょうしゅう)の道明かりとして、大きな松明(たいまつ)に火がともされる=2015年3月11日、奈良県奈良市の東大寺(井浦新さん撮影)【拡大】
行事を行う練行衆(れんぎょうしゅう)は、みずからの罪障はもちろん、全ての人々の罪過も代わってざんげする、いわば観音菩薩と人々のあいだの媒介者の役を果たす。したがって、「修二会」に携わる練行衆が強い覚悟を持ち、長期にわたる法会を乗り越えるには、日々の心身の鍛錬が必要だ。僕の心を強くとらえたのはその練行衆の姿だった。
「修二会」は2月20~28日までの前行(準備期間)と、3月1~14日までの本行とに分かれる。修二会は、練行衆が普段の生活を断ち切って精進し、心身を清める期間。身につける紙衣(かみこ)や差懸(さしかけ)という特殊な履物を整えたり、「花ごしらえ」と呼ばれる、須弥壇(しゅみだん)を荘厳するための椿の造花をつくるのもこの時期だ。総別火(そうべっか)になると、練行衆は大広間に集まって起居寝食をともにし、茶湯は制限され、私語も許されず、暖は廊下の火鉢のみ。2月下旬の厳しい寒さのなかの行は並大抵ではない。
こうして14日間にわたる本行に入っていく。「六時の行法」といわれるように、一日が日中、日没、初夜、半夜、後夜、晨朝の六時に分けられ、「散華行道(さんげぎょうどう)」「称名悔過(しょうみょうけか)」「五体投地」など、激しい所作を伴う行法が毎日欠かすことなく繰り返される。