伝統とは何か?と聞かれる度に、自分の至らなさばかりが目につき口が重くなる。私には足りていないことがあまりに多い。しかし幸運なことに、近しい関係の中には伝統を背に代を重ねる方々がいる。彼らと接し、立ち居振る舞いに注視していると「伝統」というものがいかに「人格」と表裏一体の関係にあるのかを実感できる。人格は、家庭や会社という私的社会の中で育まれ、公的社会の上で花開く。伝統技術はそうした人格により伝承され、革新をもって高みにのぼり新たな伝統を紡ぐ。つまり伝統とはその人格の数だけ存在するのだ。ありようは千差万別、優れた人格足らしめんと努力し続けることが、過去を理解することにつながり、未来を創造することとなる。その多様性や独自性を尊ぶことは、人間らしく美しい。だからこそ、私は伝統を未来につなぎ、ご一緒することに喜びを覚えるのだ。
こだわりある未来
今、日本の伝統的なものづくりを押し上げるような強い風が吹いている。国や地方自治体はもとより、伝統技術を今につなぐ事業者たちが危機意識を共有し、変革の機運も高まっている。特にこの数年においては、さまざまな社会情勢の変化に伴い動向が一気に表面化してきた。