拉致被害者の家族(右側)と面会、救出に向けた決意を表明した安倍晋三(しんぞう)首相(左から2人目)=2015年4月3日、首相官邸(酒巻俊介撮影)【拡大】
山谷担当相と官僚がバトル
平壌派遣をめぐっては、拉致被害者家族会と山谷(やまたに)えり子拉致問題担当相が成果が得られないとして反対姿勢だったのに対し、官邸と外務省が前向きのまま膠着(こうちゃく)状態が続き、政府内で両者の軋轢(あつれき)を危惧する声が出た。
10月下旬の派遣までに菅義偉(すが・よしひで)官房長官、山谷氏、岸田文雄外相、党幹部らがひざを交えて激論を繰り広げた。ある政府施設で行われた会合では、家族会の意向を踏まえた山谷氏が平壌派遣に改めて難色を示すと、外務官僚の1人が「山谷大臣が決めることではない」と語気を強める緊迫した場面もあった。拉致問題の担当閣僚に猛然と反論する官僚の姿に参加者らは思わず目を丸くしたほどだ。
結局、平壌派遣は外務省の強力な後押しで実現することになった。安倍首相も拉致問題を政権の「最重要課題」と位置付けている手前、無碍(むげ)に断るわけにもいかなかった。日本政府は交渉継続という「成果」を得たが、北朝鮮のペースに飲み込まれることも余儀なくされた。