目の前が真っ暗になりかけていると、さっきまで船の先端でグルクン(タカサゴの沖縄地方の呼称)を釣り上げていたはずのケンがやってきて、「なんか手がしびれる」と言いながら座り込んだ。見ると、ケンの顔色も真っ青だ。
私はクーラーボックス組ができたとひそかに喜び、「吐いちゃいないよ。いっそすっきりするよ」などと、しきりに嘔吐(おうと)を勧めた。ケンはすっかり憔悴(しょうすい)しきった様子で、うんうん、とうなずいていたが、少しすると、何かに呼ばれたようにすっと立ち上がった。どうしたんだろうと目で追うと、側でさおを動かしていたシンカワさんに、ケンは声をかけ、そして、
「したがほつえるろって、ふなよいのひょうじょうでふかえ」
と、言った。
「え?」とシンカワさんが聞き返した。私も、ケンがなんと言ったのか、まったく分からなかった。
「したが、ほふれるんでふけど、ほれってふなほひのひょうじょうでふか」
そう言って、ケンの手はぶるぶるぶるっと、電気を通されたように震え出した。人相もまるで別人のように引きつっていて、その時、ようやくこれはただごとではない、と私も気づいた。