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【溝への落とし物】船釣りの思い出 本谷有希子 (4/4ページ)

2015.6.29 16:00

そして今回、釣れた魚…=2015年6月14日(本谷有希子さん撮影)

そして今回、釣れた魚…=2015年6月14日(本谷有希子さん撮影)【拡大】

  • 劇作家、小説家、演出家、本谷有希子さん(本人提供)

 死ぬかと思った。ケンは、しみじみした口調でつぶやいた。あれから、すぐに胃の中のものをぜんぶ吐いてしまったせいで水分がまたなくなり、ケンは二度目の脱水症状を起こしたのだ。しかし、そのおかげで、私たちは途中で船を下りることができたのだった。だって、あの人たち、俺が泡吹いてるのに、みんな平然と釣りしてるんだもん。誰も、陸に戻ろうかって言ってくれないからさあ。

 帰り際、沖縄らしいものを思い出そうとしてみたけれど、蒼い海も澄んだ空も、死にかけたケンの姿に邪魔されて、ちっとも浮かんでこない。あー、もう船に乗ることはないだろうな、と思いながら、私は慌てて水分を補給した。(劇作家、演出家、小説家 本谷有希子/SANKEI EXPRESS

 ■もとや・ゆきこ 劇作家、演出家、小説家。1979年、石川県出身。2000年、「劇団、本谷有希子」を旗揚げし、主宰として作・演出を手がける。07年、「遭難、」で鶴屋南北戯曲賞を受賞。小説家としては短編集「嵐のピクニック」で大江健三郎賞、最新刊「自分を好きになる方法」(講談社)で、第27回三島由紀夫賞を受賞。

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