【KEY BOOK】「影武者徳川家康(上中下)」(隆慶一郎著/新潮文庫、853円、907円、853円)
最も読まれた作品。家康が死んで影武者が神君になったという仮説のもと、家康と徳川家にまつわる謎の背景、秀忠を自在に操った影武者二郎三郎の意外な政策、とくに「公界」建設の意図、駿府の意味などが微細に明らかになっていく。ぼくは時代小説で歴史論の肩代わりをするタイプではないのだが、こと隆慶一郎の家康仮説にはかなりはまってきた。とくに「ささら者」についての掘り下げは胸を打つ。歴史を救う「救史」とさえ言いたい。
【KEY BOOK】「花と火の帝(上下)」(隆慶一郎著/日経文芸文庫、各680円)
松永誠一郎の父の後水尾天皇を主人公に、脇に八瀬童子のリーダー岩介を配した未完の小説。日本経済新聞連載中の絶筆となった。後水尾は16歳で即位して幕府の圧力で秀忠の娘の和子(東福門院)を皇后に迎え、寛永6年に譲位して、51年にわたる院政を貫いた反骨の帝だった。武と政をあえて捨て、歌や立花や書などの「花」に遊んだ。なぜそんなことができたかということが、八瀬童子の暗躍につながる。かれらは「天皇の隠密」だったのだ。(編集工学研究所所長・イシス編集学校校長 松岡正剛/SANKEI EXPRESS)