【BOOKWARE】
清水さんとは40年近く、ずいぶんいろいろな話を交わしてきた。東大薬学部で教鞭をとっていた頃に私淑させてもらったのが最初だ。ぼくがプリゴジンの非平衡熱力学、ハーケンのシナジェティックス、アイゲンのハイパーサイクル理論、自己組織化のしくみ、複雑系をめぐるさまざまな仮説、バイオホロニクスなどに親しめたのは、どんな科学理論であってもずばりと本質に切り込んで、それを適確な言葉で解説されるセンセーの独得の示唆力のおかげだった。
当時すでに、清水さんは独自の理論を組み立てつつあった。それはまとめていえば「生命と場所と意識をめぐる関係の科学思想」というべきもので、その出発点は「なぜ生命には自己創出があるのか」「なぜ生命システムには部分間の動的関係が成り立っているのか」「なぜ生命は人間に意識をもたらしたのか」「なぜ生命と人間は場所に育まれてきたのか」などという問いから始まっていた。
清水さんはこれらの問いにみずから答えるべく、実に多くの仮説的思索を重ねてきた。科学者だけではなく宗教者や武道家や日本文化研究者との対話も深めた。それゆえ、その理論仮説は83歳を迎えるいまなお、弛(たゆ)まぬ改良と改変が加えられている。そのひたむきな姿勢と集中力はたいへん瑞々しい。